リーグ最高の選手を、控え選手の値段で1年だけ使えるとしたら、あなたは何に使うか。

サンノゼ・シャークスは今、まさにその問いの中にいる。

サンノゼ・シャークスのマックリン・セレブリーニが、5年総額9,400万ドルの契約延長にサインした。年平均は1,880万ドル。1ドル=約159円で換算すると、年平均約29億9,000万円、総額約149億5,000万円になる。

ただし、この高額契約が始まるのは2027-28シーズンからだ。

2026-27シーズンのキャップ計算額は、まだ新人契約の97万5,000ドル(約1億5,500万円)。来季との差は、1年で1,782万5,000ドル、約28億3,000万円もある。サンノゼにとって今季は、リーグ最高クラスの選手を新人価格で使える、最後のボーナスシーズンなのである。

なぜ来季から、チーム編成が厳しくなるのか

NHLには「サラリーキャップ」がある。これは、1チームが選手全員へ払える年俸総額の上限だ。

資金力のあるオーナーでも、上限を超えてスターを集めることはできない。全チームが同じ大きさの財布を渡され、その中で約23人の選手を揃える仕組み、と考えれば分かりやすい。

2027-28シーズンの上限は、現時点で1億1,350万ドルの見込み。セレブリーニの1,880万ドルだけで、その約16.6%、つまりチーム全体の財布の約6分の1を使う。

残り約9,470万ドルで、ほかの約22人を揃えなければならない。主力DF、GK、得点できるセカンドライン、控え選手まで、すべてこの残額から支払う。だからスター1人の年俸が上がるほど、チームは別の選手を放出したり、安い若手で穴を埋めたりする必要が出てくる。

2025-26シーズンのセレブリーニは45ゴール、115ポイント。

シュート、プレーメイク、パックキャリー、攻撃センスを兼ね備えた次世代CFだ。

NHL EDGEでも、ミドルレンジからの159本の枠内シュートと25ゴールはリーグ最多である。

セレブリーニの価値は得点数だけではない。自分でパックを運び、危険なエリアへ入り、味方にも決定機を作る。年平均1,880万ドルは、この攻撃工程を1人で複数担えることへの価格だ。

今季のキャップヒットは上限1億400万ドルの1%にも満たない。この価格差を、サンノゼがどこまでチーム戦力へ変えられるかが重要になる。

若手4人で約400万ドル

サンノゼの異常なコスト効率は、セレブリーニ1人ではない。

若手FW2026-27 キャップヒット
マックリン・セレブリーニ97万5,000ドル
ウィル・スミス95万ドル
マイケル・ミサ98万6,250ドル
イヴァル・ステンベリ107万5,000ドル
4人合計398万6,250ドル

4人合計でも、ダーネル・ナース1人の925万ドルの半分以下である。

この差額があるから、サンノゼは若手を育てながら、ナース、ジェイコブ・トルーバ、マイケル・ケッセルリング、メイソン・マーチメントといった即戦力を加えられた。新人契約の余剰価値を、守備とフィジカルへ変換した編成だ。

🇸🇪ステンベリは「得点する若手」ではなく、攻撃を前へ進める若手

2026年ドラフトでサンノゼが指名したスウェーデン人FWイヴァル・ステンベリは、全体1位ではなく全体2位。1位はトロントのギャビン・マッケナだった。

それでも、ステンベリの中身はサンノゼに合うのではないか。18歳でSHL43試合33ポイント。NHL Central Scoutingではインターナショナル・スケーター1位に評価された。ドラフト対象上位224人中。

セレブリーニとステンベリに共通するのは、パックを持った瞬間に攻撃を前へ動かせることだ。セレブリーニだけにパックキャリーとクリエイティブを任せず、別ラインから同じ種類のプレッシャーを出せる可能性がある。

ただし、ステンベリはまだ18歳である。開幕からトップ6を救う前提で計算すべきではない。今季の成功条件は、彼が得点を量産することより、5対5で攻撃時間とゾーン侵入を増やせるか、最低限の守備ができるかだ。

ナース獲得の意味は、若手の守備負担を減らせるか

エドモントンから獲得したナースは、31歳のベテランDF。昨季は82試合で平均20分58秒出場し、ブロックとヒットでオイラーズ最多だった。

しかし、「有名なDFを取ったから守備が改善する」では分析にならない。サンノゼは昨季、1試合あたりのショット試行差がマイナス3.9で、リーグワースト3位だった。見るべき数字は、ナース個人の得点ではなく、彼の出場中に守備時間を短くできるか、そして攻撃へトランジッションを早く作れるかである。

ナースとトルーバが相手の主力ラインのマッチアップを引き受け、攻撃時間が増えるなら、この補強は効く。逆に自陣から出られず、セレブリーニが毎回低い位置まで戻るなら、925万ドルを払ってもチーム構造は変わらない。

台風の目になる条件

最大の不安は、攻撃の集中だ。昨季のセレブリーニは115ポイント。チーム2位のウィル・スミス59ポイントと3位アレクサンダー・ウェンバーグ55ポイントを足しても114で、セレブリーニ1人に届かなかった。

だから、サンノゼの判定基準は明確である。

この3つが揃えば、サンノゼはプレーオフ争いへ入る。セレブリーニ依存のままなら、派手な試合は増えてもプレーオフには絶対に届かない。

私の予想は、条件付きで「台風の目」だ。

2026-27は、セレブリーニが安い最後のシーズンである。来季から彼1人に1,880万ドルを払えば、同じ補強はできない。サンノゼのGMマイク・グリアーに問われているのは、未来のスターを集める力ではない。新人契約で生まれた約1,800万ドル分の余白を、今季の勝利へ変えられるかである。


※契約額、ロースター、成績は2026年8月18日時点。日本円は同日時点の概算レート、1ドル=約159円で換算。